【区分所有法】出ていく側と追い出す側 ─ 復旧の“買い取れ”と建替えの“売り渡せ”、矢印の向きを天秤で腑に落とす

📘 深掘り解説 | 区分所有の順路 3 / 8 論点①×⑤〈決議のあとの出口(買取請求と売渡し請求)〉 のくわしい解説です
この記事は〈区分所有の型〉で迷った論点だけを読む場所です。順に全部読む必要はありません。
区分所有法 ・ 論点①×⑤の深掘り 決議のあとの出口(買取請求と売渡し請求)
出ていく側と追い出す側 ─ 復旧の”買い取れ”と建替えの”売り渡せ”、矢印の向きを天秤で腑に落とす
復旧のあとには〈賛成者以外→賛成者〉の「買い取れ」、建替えのあとには〈賛成側→不参加者〉の「売り渡せ」。矢印の向きが真逆なのはなぜか。決議のあとに困るのは誰かを天秤に乗せれば、暗記ゼロで導出できます。
目次

まず1問 ― 建替え決議に「買取請求」?(平成10年 問13 肢4)

区分所有法第62条第1項に規定する建替え決議が集会においてなされた場合,決議に反対した区分所有者は,決議に賛成した区分所有者に対し,建物及びその敷地に関する権利を時価で買い取るべきことを請求することができる。

⇄ 決議のあとの”出口マップ” ― 請求の矢印はどちら向きか
復旧(大規模滅失・出席者の各2/3)=建物が残る買取請求(§61⑦)=賛成者以外→賛成者へ「買い取れ」(出ていく側から)
建替え(各4/5・全員ベース)=建物が消える売渡し請求(§63⑤)=賛成側→不参加回答者へ「売り渡せ」(進める側から)

📌 本問は建替えなのに「買い取るべきことを請求できる」と言っている ⇒ 復旧の出口を建替えに移植した”方向スワップ”。※復旧の梯子(単独/過半数/2/3)の”なぜ”は復旧の深掘り記事で。この記事はその梯子の”その後”の話。

結論:×(誤り)

建替え決議に「買取請求」という出口は存在しない。建替えの出口は売渡し請求(§63⑤)=賛成側から不参加者への「売り渡せ」。「賛成した者へ時価で買い取れ」と請求できるのは大規模滅失の復旧決議(§61⑦)です。
では、なぜ復旧と建替えで請求の矢印が真逆になるのか? ここからが本題です。

🧠 なぜこうなる? ― 講師と生徒で”天秤”に乗せる

⚖️ 天秤の世界
決議のあとの出口は「多数決で前へ進む団体の利益」と「決議に乗らなかった人の財産」を天秤にかけて決まります。決議のあとに困るのは誰か――その側から見れば、請求の矢印の向きは導出できます。
🙋‍♂️
生徒:先生、この平成10年の肢は自信あります!復旧のとき、反対した人が賛成者に「買い取って」と言えるのは復旧の深掘りで習いました。建替えは復旧よりもっと重大ですよね。だったら反対した人はなおさら「買い取って」と言えるはず。…○です!
👨‍🏫
講師:待て。その肢、天秤に乗せろ。決議が通った“あと”、困るのは誰だ? まず復旧から行くぞ。地震でマンションが半壊した。復旧決議(出席者の各2/3)が可決した。だが反対したおばあさんはこう言う――「直したところで、私はもうここで暮らす気力がないの。廃墟同然だった建物の修繕費を払い続けるなんて嫌」。
🙋‍♂️
生徒:…切ないですね。建物は直って残るのに、おばあさんだけ心が折れたまま取り残される。
👨‍🏫
講師:そう、ポイントは建物が残ることだ。多数決に負けた彼女をその建物に縛り付けたら気の毒だろ? だから法は彼女に“出ていく自由”を渡した。決議賛成者に向かって「私の分を時価で買い取れ」(買取請求・§61⑦)。矢印は出ていく側→残る側だ。
👨‍🏫
講師:次は建替えだ。老朽マンションで建替え決議(各4/5)が可決した。ところが反対のおじさんが一人、部屋に居座ったらどうなる?
🙋‍♂️
生徒:建物を取り壊せない…! 一人のために事業全体が止まりますね。
👨‍🏫
講師:そうだ。今度は建物が消える話だから、決議のあとに困るのは進めたい側。だから矢印が反転する。賛成側が「時価で売り渡せ」(売渡し請求・§63⑤)と請求して、退去してもらう。矢印は進める側→残ろうとする側だ。
🙋‍♂️
生徒:見えました! 復旧=建物が残る→出たい人が自分から請求(買い取れ)建替え=建物が消える→残ろうとする人へ賛成側から請求(売り渡せ)。”決議のあとに困る人”の側から見れば、矢印の向きは暗記じゃなく導出できるんですね!
👨‍🏫
講師:その目で冒頭の肢を3手で解いてみよう。手1=「建替え決議」+「買い取るべきことを請求」→決議のあとの出口請求の論点。手2=主語(決議に反対した区分所有者)も相手(決議に賛成した区分所有者)も「時価で」も、§61⑦(復旧)の文言そのまま。なのに冒頭だけ「建替え決議」――復旧の道具を建替えに移植した方向スワップだ。手3×(本試験では「誤っているものはどれか」の正解肢)。文言は本物、制度が偽物。これがこの論点最大の罠だ。
👨‍🏫
講師:ここで引っかけ①。「建替え決議に賛成しなかった区分所有者も、建替えに参加しなければならない」――これは?
🙋‍♂️
生徒:それは建替えの記事で実演しました。参加義務はないので×、ですよね。
👨‍🏫
講師:よし、結論だけ確認だ(実演はあちらに譲る)。ここで大事なのは流れのほうだ。招集者が賛成しなかった者へ書面で催告(§63①)→受領から2月以内に回答(§63③)→無回答は”不参加”とみなす(§63④)→その不参加回答者が売渡し請求の対象になるだけ。参加を強制されるんじゃなく、「参加する」か「時価で買い取られて出る」かを選ばされるんだ。
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講師引っかけ②(復旧側のすり替え)。「買取請求ができるのは反対票を投じた者だけ」――どうだ?
🙋‍♂️
生徒:うーん、”出ていく自由”を渡したい相手は、反対した人だけじゃなくて…欠席や棄権の人も賛成していないから…「決議賛成者以外」全員ですか?
👨‍🏫
講師:正解。§61⑦の請求権者は「決議賛成者以外」=反対・欠席・棄権を含む。「反対者だけ」と絞ってきたら×だ。行使できるのは決議の日から2週間を経過した後だぞ。
👨‍🏫
講師引っかけ③(建替え側のすり替え)。「売渡し請求の相手は反対票を投じた者」――?
🙋‍♂️
生徒:さっきの流れなら…相手は「参加しない旨を回答した者」(+無回答の不参加みなし)! 反対票を投じても、催告に「参加する」と回答すれば買い取られないんですね。
👨‍🏫
講師:完璧だ。請求する側には賛成者のほか参加回答者・買受指定者も含まれ、行使は回答期間満了の日から2月以内(§63⑤)。復旧も建替えも、「反対者」と書いてきたら条文の主語・相手とズレていないか疑え。
🙋‍♂️
生徒:そういえば、大規模復旧の議事録には各人の賛否を書くって聞きましたけど、あれはなぜですか?
👨‍🏫
講師:建替えも同じだ(§61⑥・§62⑩で準用)。出口請求を伴う決議は“誰が賛成側か”で請求の宛先が決まる。だから両制度とも、議事録に各人の賛否を残すんだ。
⚖️ 暗記メモ(この天秤を本番へ持っていく)
  • 復旧(大規模滅失・出席者の各2/3)=「買い取れ」:賛成者以外(欠席・棄権含む)→賛成者へ・決議日から2週間経過後・買取指定者(§61⑧)が指定されたらその者のみへ・4月以上の催告期間経過で失権(§61⑪⑬)
  • 建替え(各4/5・全員ベース)=「売り渡せ」:賛成側(参加回答者・買受指定者含む)→不参加回答者へ・回答期間満了から2月以内
  • 参加義務はない:催告→2月以内に回答→無回答=不参加みなし(売渡し請求の対象になるだけ)
  • 1行格下げ組:滅失日から6月以内に決議なし→各自が他の区分所有者へ買取請求(§61⑭)/小規模滅失を単独復旧した者は他の区分所有者へ§14割合で償還請求(§61②)/議事録の賛否記載は復旧・建替え共通
📖 条文チェック(§61⑤〜⑭・§62⑩・§63①③④⑤)

§61⑤(大規模滅失の復旧決議):建物価格の1/2超が滅失したときの復旧決議は、出席した区分所有者及びその議決権の各2/3以上の多数。

§61⑥:その集会の議事録には、決議についての各区分所有者の賛否をも記載・記録しなければならない。

§61⑦(買取請求):決議の日から2週間を経過したときは、決議賛成者以外の区分所有者(欠席・棄権含む)は、決議賛成者に対し、建物及びその敷地に関する権利を時価で「買い取れ」と請求できる。

§61⑧(買取指定者):買取指定者が指定され書面で通知されたときは、通知を受けた区分所有者は買取指定者に対してのみ請求できる。

§61⑪⑬(催告と失権)4月以上の期間を定めて「請求するか否か」を書面で催告→期間を経過すると買取請求はできなくなる(失権)

§61⑭(決議がないとき):滅失日から6月以内に復旧・建替え等の決議がないときは、各区分所有者は他の区分所有者へ買取請求できる。

§62⑩:建替え決議をした集会の議事録に§61⑥を準用(=建替えも賛否を記載)。

§63①③④(催告→回答→みなし):招集者は賛成しなかった者へ参加するか否かを書面で催告→催告受領から2月以内に回答→無回答は参加しない旨を回答したものとみなす

§63⑤(売渡し請求):回答期間満了の日から2月以内に、賛成者・参加回答者・買受指定者は、不参加回答者に対し、区分所有権及び敷地利用権を時価で「売り渡せ」と請求できる。

論点①×⑤:決議のあとの出口 ─ 3手で解く
建替え決議に「買取請求」という出口はない
平成10年 問13 肢4
📋 問題文(色=解き方の地図)

区分所有法第62条第1項に規定する建替え決議が集会においてなされた場合,決議に反対した区分所有者は,決議に賛成した区分所有者に対し,建物及びその敷地に関する権利を時価で買い取るべきことを請求することができる

1 見分ける ▸ どの論点? → 決議のあとの出口(買取/売渡し請求)
🔵青の「建替え決議」+「買い取るべきことを請求」の組合せ。数字でも規約でもなく、決議の”あと”の出口請求へ振り分ける。
2 考える ▸ 決め手と罠は? → 建替えの出口は売渡し請求(§63⑤)=賛成側→不参加回答者へ「売り渡せ」
🔴「反対した者は」「賛成した者に対し」「時価で」は復旧の買取請求(§61⑦)の文言そのまま=制度名だけ建替えにすり替えた方向スワップの罠。文言は本物、制度が偽物。
3 仕上げる ▸ ○か×か? → × 誤り
建替え決議に買取請求という出口はない。「賛成者へ時価で買い取れ」は大規模滅失の復旧決議(§61⑦)の制度。
📋 問題文(ヒントなし・自分で解く)

区分所有法第62条第1項に規定する建替え決議が集会においてなされた場合,決議に反対した区分所有者は,決議に賛成した区分所有者に対し,建物及びその敷地に関する権利を時価で買い取るべきことを請求することができる。

1 見分ける ▸ どの論点?
2 考える ▸ 決め手は?
3 仕上げる ▸ ○か×か?
🏋 この論点の過去問を、もっと解く

復旧・建替えまわりの過去問は、ドリルの論点①〈決議の数字〉と論点⑤〈復旧ほか〉にまとめてあります。3手(見分ける→決め手→○×)で腕試し。

▶ 区分所有法ドリルで腕試し →
📌 この記事の核心
決議のあとの出口は、“決議のあとに困るのは誰か”で矢印の向きが決まる。復旧=建物が残る→出たい人が自分から「買い取れ」(§61⑦・賛成者以外→賛成者へ・2週間経過後)建替え=建物が消える→賛成側から「売り渡せ」(§63⑤・賛成側→不参加回答者へ・回答期間満了から2月以内)。「建替え決議に買取請求」は文言だけ本物の方向スワップ罠=×。参加義務はない(催告→2月→無回答は不参加みなし)。理由で分かれば、矢印も期間も迷いません。
読み終えたら | 区分所有の順路 3 / 8
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