⚖️ 天秤の世界
天秤の片方に「反対する少数者の財産権(自分の部屋の権利が一旦消滅する)」、もう片方に「危険な建物から住民全員の命・安全を守る必要」。この天秤を傾けられるのは誰(何)なのかで、4/5と3/4が分かれます。
🙋♂️生徒:先生、
重大変更の回で「3/4は規約で過半数まで下げられる」って習いましたよね。建替えも、客観的な事由があれば3/4に下がるって聞きました。だったら、うちのマンションは規約で「建替えは3/4でOK」って定めておけば楽じゃないですか?
👨🏫講師:その”合体技”、実は本試験がそのまま×肢にしている。冒頭の平成9年問13肢4がまさにそれだ。天秤に乗せてみろ。建替えで動くのは、何だ?
🙋♂️生徒:古い建物を壊して新しく建てる…あっ、いま住んでいる部屋そのものが無くなる?
👨🏫講師:そうだ。301号室に40年住むおばあちゃんを思い浮かべろ。建替え決議が通れば、おばあちゃんの区分所有権=自分の部屋の権利そのものが一旦消滅する。区分所有法で一番重い決定だ。天秤の片方には、この反対する少数者の財産権が乗っている。そして規約ってのは住人の多数派が作るルールだ。多数派が「少数者を追い出すハードル」を自分たちに都合よく下げられたら、どうなる?
🙋♂️生徒:多数派のやりたい放題です…。それは不公正すぎます。
👨🏫講師:だから条文は入口を閉じている。重大変更の§17①には、賛成要件の各3/4(頭数も議決権も両方)を規約で過半数(2分の1超)まで下げられる引下げの括弧書きがある。ところが建替えの§62①には、この引下げの括弧書きが存在しない。書いていない=できない。規約に何を書こうが、4/5は1ミリも動かない。規約で賛成のハードルを下げられるのは、重大変更ただ1つだ。
🙋♂️生徒:じゃあ、なんで「3/4」なんて数字が§62に出てくるんですか?
👨🏫講師:天秤のもう片方に、「耐震基準を満たしていない=大地震が来たら住民全員の命が危ない」という建物の客観的な状態=事実が乗ったときだ。このときは人の合意ではなく、法律自身が(法務大臣の定める基準に照らして・§62②③)天秤を傾けて、法律上当然に「4/5」を「3/4」と読む。法定5事由=耐震・火災・外壁剥離落下・配管劣化・バリアフリー不適合。人の合意では下がらない、事実で下がるんだ。
🙋♂️生徒:下げる”主体”が違うんだ! 重大変更=住人が規約で下げる/建替え=法律が事実で下げる。規約に何を書いても、建替えの4/5は動かないんですね。
👨🏫講師:注意を1行だけ。「外壁剥離・バリアフリー」という語は、重大変更側の§17⑤(3/4→2/3の読み替え)にも出てくる。建替え(4/5→3/4)と重大変更(3/4→2/3)は別の条文・別の数字だ。トリガー語が同じでも混ぜるな。
👨🏫講師:では冒頭の1問を3手で仕上げるぞ。「区分所有法第62条第1項に規定する建替え決議は,規約で別段の定めをすれば,区分所有者及び議決権の各3/4以上の多数により行うことができる。」──どう解く?
🙋♂️生徒:手1=建替え決議の数字(緩和の仕組み)の論点。手2=決め手は「規約で別段の定めをすれば」。「各3/4」自体は§62②に実在する数字だから一瞬○に見えますけど、下げるのは規約じゃなくて事実でした。手3=×!
👨🏫講師:満点だ。実在する数字「各3/4」を見せて、下がる”仕組み”だけをすり替える──王道の罠だ。ついでに母数。§62①は「出席した」の冠がない全員ベースで、建替えを筆頭に4/5系はすべて全員ベースだ(建物更新§64の5なども同じ。試験の主役は建替え)。なお、所在等不明の区分所有者が裁判所の裁判(§38の2)で議決権を有しない扱いとされると、§62①の括弧書き「議決権を有しないものを除く」経由でこの全員ベースの母数からも消える──単なる行方不明だけでは自動で除外されない、と1文だけ頭の隅に。
👨🏫講師:引っかけ①。「建物の区分所有等に関する法律第62条の老朽による建替えは,集会において区分所有者及び議決権の各4/5以上の多数による決議で行うことができることとされており,規約で別段の定めをすることはできない。」(平成4年 問16 肢4)──○か×か?
🙋♂️生徒:「規約で別段の定めをすることはできない」…今日の結論そのものだから、○!
👨🏫講師:○、しかもこの問題の正解肢だ。大事なのは、これが旧法時代の遺物ではなく現行法でも正解肢=規約別段不可は今も真だということ。注記を1つ:肢の「老朽による建替え」は旧法の文言で、現行法に老朽という要件はない。今は事由が無くても4/5で建替えでき、5事由に該当すれば3/4になる──それだけだ。
👨🏫講師:引っかけ②。「建物の区分所有等に関する法律第62条の老朽による建替えの決議が集会においてなされた場合,当該決議に賛成しなかった区分所有者も,建替えに参加しなければならない。」(平成6年 問14 肢4 ※「老朽による」は旧法の文言・現行法に老朽要件なし)──○か×か?
🙋♂️生徒:4/5も賛成が集まったんだから、全員参加…○?
🙋♂️生徒:え、じゃあ反対した人の部屋はどうなるんですか? おばあちゃんが居座ったら、建替えできないじゃないですか…
👨🏫講師:そこが今日のフルコースだ。決議の前から出口まで、一本の時系列で見せる。
❶
招集通知=会日の2ヶ月前まで(規約で
伸長のみ可・§62⑥。招集通知の一般ルール=”砦”の深掘りは
招集の記事で)
❷ 会日の1ヶ月前までに説明会を開催(§62⑧)
❸ 決議=各4/5(5事由該当なら3/4)。議事録に各人の賛否を記載(§62⑩で§61⑥準用)
❹ 賛成しなかった者へ書面で催告「建替えに参加するか否か答えよ」(§63①)
❺ 催告を受けた日から2月以内に回答。無回答=不参加とみなす(§63③④)
❻ 回答期間満了から2月以内に、賛成者・参加回答者・買受指定者が不参加者へ「区分所有権と敷地利用権を時価で売り渡せ」=売渡し請求(§63⑤)
この売渡し請求は、請求だけで売買を成立させる強い権利(形成権)だ。おばあちゃんの財産は
時価のお金に換わって出ていく──だから「参加義務」なんて最初から要らないんだ。
🙋♂️生徒:追い出されっぱなしじゃないんだ…。ちゃんと時価で清算される。ちょっと安心しました。
👨🏫講師:生活に著しい困難が生じるなら、裁判所が明渡しに最長1年の期限を許与できる(§63⑥)。まとめの語呂は「2ヶ月が3回」=招集2ヶ月前・催告回答2月・売渡し請求2月。この3つで入口から出口まで完結だ。1つ目の2ヶ月は本試験でこう出た──「建替え決議を目的とする集会を招集するときは、会日より少なくとも2月前に、招集通知を発しなければならない。ただし、この期間は規約で伸長することができる。」(平成21年 問13 肢3)=○。伸長のみ・短縮は不可だ。
👨🏫講師:方向の注意を1文だけ。建替えの売渡し請求は「追い出す側→出ていく側」への請求。復旧の買取請求(反対者側が自分から「買い取れ」と請求する)とは矢印が真逆──この対比の深掘りは別の記事に譲る。最後に1段落だけ:令和8年改正で新設された建物更新(§64の5)・取壊し(§64の8)などの決議も、建替えと同じ全員ベース・各4/5のファミリーだ。出題実績はゼロ=名前だけ知っておけば足りる。
⚖️ 暗記メモ(この天秤を本番へ持っていく)
- 建替え=各4/5・母数は全員ベース(4/5系はすべて全員。所在等不明者は裁判所の裁判で母数からも消える)
- 3/4に下がるのは規約でなく「法定5事由という事実」(耐震・火災・外壁剥離・配管・バリアフリー)=規約で賛成要件を下げられるのは重大変更ただ1つ
- 時系列=招集2ヶ月前→説明会1ヶ月前→決議(賛否を議事録に)→催告→2月回答(無回答=不参加みなし)→2月以内に時価で売渡し請求
- 参加義務はない・出口は売渡し請求で清算(語呂=「2ヶ月が3回」)
- 決議から2年以内に取壊し着手なし→売り渡した者から再売渡し請求(§63⑦・期間満了から6月以内・代金相当額を提供)