⚖️ 天秤の世界
決議の”分母”は「決められる動きやすさ」(朽ちていくマンションを救う)と「来ない人・少数者の保護」(少人数の思いつきで財産が決められない砦)の天秤で設計されています。改正が動かしたのは分子でなく分母——その釣り合いを見ていきます。
🙋♂️生徒:先生、令和8年改正で決議の母数が「出席した区分所有者及びその議決権」になったんですよね。じゃあ①昔の過去問の「区分所有者及び議決権の各過半数」という肢は、今は全部×? ②それに出席者ベースなら、100戸のマンションで3人しか来なくても2人の賛成で決議できちゃうんですか?
👨🏫講師:いい”二重の勘違い”だ、両方潰す。ただし先に土俵を決めるぞ。
梯子の記事でやったのは
分子=賛成のハードル。今日やるのは
分母=
誰を数えて、誰が消えるか。それだけだ。
👨🏫講師:まず、なぜ改正が分母を動かしたか。天秤に乗せろ。100戸のマンション、10戸は相続をくり返して所有者が誰だか分からない。郵便受けにチラシが溜まり続け、外壁タイルは今にも落ちそうだ。旧法の母数は全員ベース=分母は常に100。どんなに頑張っても賛成が届かず、直せないままマンションが朽ちていく。左の皿(動きやすさ)が沈みすぎていた。
🙋♂️生徒:連絡のつかない10戸のせいで、残り90戸は何も決められない…。それは理不尽ですね。
👨🏫講師:だから改正は分母を「その集会に出席した人」に組み替えた。§39①——議事は「出席した区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及びその議決権の各過半数で決する」。来た人で決める=左の皿へぐっと倒した。だがタダで倒したんじゃない。右の皿(来ない人・少数者の保護)の担保が仕込んである。お前の疑問に答えながら見せていく。
🙋♂️生徒:じゃあ疑問②から。出席者ベースって、極端な話、100戸で3人しか来なかったら2人の賛成で決議成立…なんてことになりませんか?
👨🏫講師:そこは
三層で答える。(a)
普通決議(§39①)に法定の定足数は無い。規約で定めない限り下限は無く、理屈の上では少人数でも成立しうる——だから現実には
多くの管理規約が自前で定足数を置いている。(b) 一方、
特別決議の柱書(§17①・§31①・§47①・§61⑤など)には法定の定足数「頭数・議決権の
各過半数の出席」がある。規約で動かせるのは
上回る割合だけ——§17①柱書の逐語「
これを上回る割合を規約で定めた場合にあつては、その割合以上」。重くは可・軽くは不可=守る方向にだけ動かせる、は
定足数の記事でやったから復習1行で済ますぞ。(c)
建替えなど4/5系は全員ベース=定足数という概念自体が無い。
📊 定足数の三層(ここを混ぜたら負け)
🟢 普通決議(§39①)=法定の定足数なし(規約で定めない限り下限なし→多くの管理規約が自前で置く)
🟠 特別決議の柱書(§17①・§31①・§47①・§61⑤等)=頭数・議決権の各過半数の出席が法定・規約は上回る割合のみ
🔴 建替えなど4/5系=全員ベース=定足数という概念自体がない
🙋♂️生徒:重い決議ほど「人が集まってから」を法律が保証、普通決議は法律上下限なし・規約で自衛、と。じゃあ次の疑問です。「出席」って会場に来た人ですよね? 書面で票を送った人は欠席扱いで分母から消えるんですか?
👨🏫講師:消えない。§39②後段——書面や代理人によって議決権を行使した区分所有者は「出席した区分所有者」の数に算入され、議決権も出席者の議決権に算入される。電磁的方法(ネット投票など)も§39③が書面による行使とみなして同じ扱い(※電磁的の行使には規約又は集会の決議による授権が要る点だけ小さくメモ)。つまり書面・代理人・電磁的の3点セット=「出席」に算入。そして「出席した区分所有者」に算入される以上、特別決議柱書の”出席”=定足数にも数えられると導ける。シーンで焼き付けろ——日曜の集会、会場には20人。でも書面の票が35通届いていれば出席は55。「出席=会場に来た人」ではないんだ。
🙋♂️生徒:会場20人でも出席55…! なら最後の疑問です。最初の100戸マンションの所有者不明の10戸。ああいう行方不明の人は、自動で分母から消えるんですよね? だから動きやすくなった、と。
👨🏫講師:消えない。ここが右の皿(保護)の最大の担保だ。人を分母から消すのは「その人の票を無いことにする」=重大な権利の制限だから、裁判所という関門を置いた。§38の2——所在等不明の区分所有者は、(一般の)区分所有者又は管理者の請求により裁判所の「裁判」を経てはじめて「議決権を有しない」扱いになる(管理組合法人があるときは法人が請求=§47⑫の読替え)。この「議決権を有しない」が効くと、各条文の括弧書き「(議決権を有しないものを除く。)」を通って頭数からも議決権からも一斉に消える。全員ベースの建替え(§62①)の母数からも、だ。
🧭 図解:裁判で「議決権なし」→ 括弧書きで全条文へ波及
所在等が不明 →
裁判所の裁判(§38の2)→ その人は「
議決権を有しない」扱い
↓ 各条文の括弧書き「
(議決権を有しないものを除く。)」を通って——
・普通決議(§39①)の頭数・議決権から消える
・特別決議の定足数(§17①柱書など)からも消える
・
全員ベースの建替え(§62①)の母数からも消える
※裁判を経ない”ただの行方不明”は分母に残ったまま=100戸中10戸不明でも分母100。裁判を経てはじめて分母90。
🙋♂️生徒:分かってきました…! 改正は”分子”じゃなく“分母”の改革なんですね。梯子で数字=分子を思い出し、この記事で「誰を数えるか」を確定させる。人を分母から消すには裁判所という関門——動きやすさと保護の天秤が、分母の設計に埋まってるんだ。
👨🏫講師:その目で冒頭の肢に戻るぞ。「集会において、管理者の選任を行う場合、規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。」(令和4年 問13 肢3)——どう見る?
🙋♂️生徒:あっ、「出席した」が付いてない! 現行法の母数と違うから×です!
👨🏫講師:それが今日一番の罠だ。改正を勉強した人ほど踏む。いいか——過去問の正誤は中身(数字・主体・例外)で決まる。検証しろ。管理者の選任・解任は「規約に別段の定めがない限り集会の決議」(§25①)=普通決議の各過半数(§39①)。この肢は留保も数字も条文どおり——だから○だ。旧母数表記だけでは×にしない。母数そのものを正面から問う肢のときだけ、出席者ベースで判定すればいい。
🙋♂️生徒:危なかった…。知識が増えたせいで引っかかるところでした。
👨🏫講師:仕上げに引っかけを並べる。引っかけ①——同じ令和4年問13の肢4だ。「管理組合は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で法人となる旨…を定め、かつ…登記をすることによって法人となる」。これは?
🙋♂️生徒:これも「出席した」の無い旧母数表記…でも中身は各3/4+登記の2点セットで正しい。だから○のまま!
👨🏫講師:正解。知識として、現行の§47①は出席者ベース+定足数の二段構えだが、正誤を分けるのはあくまで中身だ。次、引っかけ②(予想肢=改正で新設された仕組み・過去問には未出題)。「所在等不明の区分所有者は、当然に集会における議決権を有しない」——○か×か?
🙋♂️生徒:×! 「当然に」ではなく裁判所の裁判が必要。自動除外はありません。
👨🏫講師:引っかけ③(これも予想肢・過去問未出題)。「書面によって議決権を行使した区分所有者は、出席した区分所有者の数に算入されない」。
🙋♂️生徒:×です。§39②後段で算入される。会場20人+書面35通=出席55、でしたよね。
👨🏫講師:締めの引っかけ④(予想肢・過去問未出題)。「普通決議には、区分所有者及び議決権の各過半数の出席という定足数が法律上定められている」。
🙋♂️生徒:×! 法定の定足数があるのは特別決議の柱書だけ。普通=なし/特別=あり/4/5系=全員ベースで概念なし——三層、ちゃんと言えました!
⚖️ 暗記メモ(この天秤を本番へ持っていく)
- 母数の原則=「出席した区分所有者及びその議決権の各〇/〇」(出席者ベース)/建替えなど4/5系だけ全員ベース
- 定足数の三層=普通:法定なし/特別:頭数・議決権の各過半数の出席(規約は上回る割合のみ)/4/5系:全員ベースで概念なし
- 書面・代理人・電磁的の行使者=「出席」に算入(§39②後段・③)→定足数にも数えられる
- 所在等不明者=裁判所の裁判ではじめて議決権なし(自動除外×・請求=区分所有者又は管理者)→括弧書き経由で建替え母数からも消える
- 過去問の正誤は中身で決まる=旧母数表記(「出席した」なし)だけでは×にしない